「木霊」

小原孝博写真展   2025/3/20~3/30

「木霊」 小原孝博写真展

会期 : 2025年3月20日(木)〜30日(日)12:00~19:00 (休廊 月火水 最終日16:00まで)

会場 : ルーニィ247ファインアーツ Room 1+2   東京都中央区日本橋小伝馬町17-9 さとうビル4階

https://www.roonee.jp/exhibition/room1-2/20250226143224

強い雨のなかを聖地に向かう。到着すると雨は止み、心を整えると光が射す。撮影後に一礼すると雲が現れ、駐車場に戻れば雨が降る。そんなことを繰り返すうちにその写真は自身の表現と捉えるのではなく、与えられた光景を世に届けることが役割と思うようになった。「語り部」こそが仕事。

一昨年の個展「息吹き」の撮影の最後は対馬と壱岐。その帰路に福岡の宗像大社に寄ると出雲や熊野等とは違う九州独特のエネルギーを感じた。宮崎の高千穂や日南、鹿児島、長崎、熊本と断片的には訪れていたが一気に九州の聖地を一周することでそのエネルギーについての自分なりの答えが出るのではないかと考えた。

一ヶ月を過ぎても撮り切るまでは帰らないと決め、横須賀からフェリーで新門司へ向かう。車に機材や寝袋等キャンプ道具も積み込みこむと秘密基地が移動するようなワクワク感があった。その喜びは出航後に大荒れの天気による大波と共に落下。激しい船酔い。四国南岸を通る頃にはようやく波は穏やかになり、豊後水道に横たわる九州が現れた時の感動は飛行機から見るいつもの景色とは違った。かつて黒潮に乗り荒れる海を渡って来た民族もこの大地を見た瞬間は心が震えたであろう。

新門司から国東半島を巡り南へ。延岡からは内陸に入り高千穂、阿蘇。再び東の海岸を目指し日向から日南。都城を経由して霧島。錦江湾に沿って桜島から鹿屋。天草から有明海を周り雲仙。佐賀、糸島を経由して前回のゴールとなった宗像大社へ。朝は5時に始まり昼はほぼ行動食。夜は宿でデータを整理しながら夕食。疲労で休むことを考えても土地のエネルギーがインスピレーションを与え動きを止めさせない。

九州には阿蘇、霧島、桜島、雲仙などの大きな火山がある。何処を歩いても心地良いエネルギーが満ちている。強い陽射し、土の深い香り、濃い緑、山の恵み、海の恵み。豊かな食や人の温かさもこの大地のエネルギーを受けてのこと。同じ太平洋上のハワイ島はアーティストの移住者が多い。理由は火山のフレッシュなエネルギーが創作に良い影響を与えてくれるから。古代に九州へ渡って来た人達はこの清らかで強いエネルギーに民族の未来をかけたのかもしれない。

鳥居の向こう側の森は禁足地。特に天皇家に関わる場所には多い。気配を感じるが火山のエネルギーとは違う。そこには何があるのだろう。届かぬ距離。神秘の森。言葉から想像を膨らませると、もののけの森、精霊の森、九州には屋久島がある。屋久島も宗像大社の沖ノ島のように島を囲む海自体が天然の鳥居ではないのか。この場所には求めている答えがきっとある。福岡から船酔いを避け陸路で一気に家に帰ると屋久島のことを調べ始めた。梅雨明けの日を想定し航空券を予約するが予想に反して長い梅雨。不安な気持ちで屋久島空港に到着すると梅雨明け宣言。慣れない森を歩く日々は筋肉痛に悩まされた。旅を終え帰宅すると台風の時期を考えながら二ヶ月後の屋久島行きのチケットを予約する。筋肉痛対策にはトレーニングと減量。

八月の台風10号は樹齢三千年の弥生杉を倒し島に膨大な被害を与えた。通行止めの道も多く、今回は森には入れないかもしれないと諦めかけていたが直前に登山道が復旧。森を歩くことで自然と共存してきた長い歴史を身体の中で思い出す。気配を消し、息吹きを感じ、心へ木霊させる。森は天と地、自然と人、過去と未来、そのつながりの地。為すべき事はその語り部。感謝と共に。